円形脱毛症では、JAK阻害薬とは別の仕組みで働く注射薬の開発が進んでいます。2026年には、レズペガルデスロイキン(Nektar Therapeutics)とベンピキバート(Q32 Bio)の第2相の結果が発表されました。どちらも未承認の開発中の薬で、日本での開発は確認できませんでした。この記事では、企業の発表資料と臨床試験の登録情報をもとに、わかっている範囲を整理します。
どんな薬か
円形脱毛症は、免疫の働きが毛包に向かうことで毛が抜ける病気と考えられています。重症例で使われるJAK阻害薬は、炎症に関わる信号を細胞の中で弱める飲み薬です。JAK阻害薬の全体像はJAK阻害薬と円形脱毛症の最新動向で解説しています。今回の2剤は、免疫の別の経路に働く注射薬です。
レズペガルデスロイキン(rezpegaldesleukin)
Nektarはこの薬を、IL-2経路に働くアゴニストで、制御性T細胞(Treg)に作用する生物学的製剤と説明しています。制御性T細胞は、行き過ぎた免疫反応を抑える役割を持つ細胞です。同社は、この細胞を増やして活性化させ、免疫のバランスを戻すことを狙うとしています。試験では月2回の皮下注射で投与されました。
ベンピキバート(bempikibart)
Q32 Bioはこの薬を、IL-7受容体α(IL-7Rα)に対する完全ヒト抗体と説明しています。IL-7とTSLPという2つの信号を遮り、獲得免疫の働きを整え直すことを狙うとしています。試験では200mgを毎週4回皮下注射し、その後は隔週で32週間投与しました。
2026年に何があったか
- 2026年4月20日:Nektarが第2b相試験REZOLVE-AAの52週時点の結果を発表。
- 2026年7月13日:Q32 Bioが第2a相試験SIGNAL-AA Part Bの36週時点の主要結果を発表。
- 2026年9月18日:REZOLVE-AA(NCT06340360)の登録情報が更新され、状態は「完了」、登録数は94例と記載。
Nektarは、2025年7月に米FDAから重症円形脱毛症でファストトラック指定を受けたと記載しています。ファストトラックは開発と審査を進めやすくする仕組みで、承認とは別のものです。
試験の結果
REZOLVE-AA(レズペガルデスロイキン・第2b相)
対象は重症から最重症の患者で、JAK阻害薬や生物学的製剤の治療歴がない人です。企業発表では92例が参加し、低用量18µg/kg、高用量24µg/kg、プラセボに3対3対2で割り付けられました。参加者の64%はポーランド、23%はカナダ、13%は米国でした。
| 52週時点(全体集団) | 低用量 | 高用量 | プラセボ |
|---|---|---|---|
| SALT≤20(頭皮の80%以上に毛がある) | 25.8% | 27.6% | 6.7% |
| SALT≤30(頭皮の70%以上に毛がある) | 30.2% | 35.0% | 8.4% |
| SALT50(SALTが50%以上改善) | 37.7% | 38.8% | 13.6% |
36週時点のSALT≤20は、低用量14.8%、高用量15.6%でした。企業は、投与を続けることで改善した人が増えたと説明しています。p値はSALT≤20で0.049、SALT≤30で0.023と記載されています。
ただし、36週以降の16週間は探索的な延長期間です。条件を満たした31例だけが続け、プラセボ群から延長に進んだのは4例でした。「全体集団」の数値には注記が付いており、算出方法は発表資料だけでは十分にわかりません。最も多い有害事象は注射部位の反応で、大半は軽度から中等度だったとされています。
SIGNAL-AA Part B(ベンピキバート・第2a相)
Part Bはプラセボを置かない非盲検の試験で、参加者は33例です。対象は脱毛面積が50〜100%(SALT 50〜100)で、今回の脱毛が始まって4年以内の人でした。33例のうち36.4%に、飲み薬のJAK阻害薬の治療歴がありました。
| 36週時点 | mITT解析 | ITT解析(33例全員) |
|---|---|---|
| SALTの平均減少率(主要評価) | 35.3% | 記載なし |
| SALT-20達成 | 40.0%(10/25例) | 30.3%(10/33例) |
重篤な有害事象や、治療に関連したグレード3以上の有害事象はなかったと発表されています。最も多かったのは注射部位反応(36.3%)でした。比較対照がなく人数も少ないため、効果の大きさを判断するにはまだ早い初期段階の結果です。
日本での状況
2026年10月3日時点で、両剤とも日本では承認されていません。ClinicalTrials.govの登録では、REZOLVE-AAの実施施設はポーランド・米国・カナダ、SIGNAL-AAは米国・カナダで、日本の施設はありませんでした。日本での治験や承認申請の予定も確認できませんでした。
わかっていること・わかっていないこと
わかっているのは、2剤ともJAK阻害薬と違う経路を狙う注射薬で、第2相で一定の反応が報告されたことです。投与間隔は、レズペガルデスロイキンが月2回、ベンピキバートが維持期に隔週でした。
一方、次の点はわかっていません。
- 第3相(承認申請用の試験)の試験名と開始時期。
- JAK阻害薬と直接比べたときの効果と安全性。
- 長期間使ったときの安全性と、やめた後に効果が続くか。
- 日本人での効果と安全性。
Q32 Bioは承認申請を見据えたプログラムを2027年前半に始める予定と発表していますが、時期は変わりえます。
今できる選択肢
この2剤は、現時点では治験の参加者以外は使えません。円形脱毛症は、脱毛の範囲や期間、ほかの病気の有無で治療の選び方が変わります。まずは皮膚科で診断を受け、今使える治療を相談することが出発点です。
国内では、重症例に使えるJAK阻害薬の飲み薬があります。ただし効果には個人差があり、感染症などの副作用にも注意が必要です。使うかどうかは医師と相談して決めてください。病気の基本は円形脱毛症の原因と治療法、日常で気をつける点は円形脱毛症のセルフケアにまとめています。
相談先に迷う場合は、皮膚科・AGAクリニック・育毛サロンの違いと皮膚科とAGAクリニックの違いが参考になります。円形脱毛症は一般にAGAクリニックではなく皮膚科で診る病気です。海外で承認されたJAK阻害薬の動きはデュルキソリチニブの解説とウパダシチニブの解説で扱っています。
よくある質問
日本でこれらの注射薬を受けることはできますか?
2026年10月3日時点で、どちらも日本では承認されていません。ClinicalTrials.govの登録を見る限り、日本の医療機関は試験の実施施設に含まれていませんでした。現時点で国内の診療で使うことはできません。
JAK阻害薬より効果が高いのですか?
JAK阻害薬と直接比べた試験は公表されていないため、比較はできません。数値は試験ごとに対象者や評価時期が違うので、並べて優劣を判断するのは適切ではありません。
いつ頃使えるようになりますか?
時期は公表されていません。Q32 Bioは承認申請を見据えたプログラムを2027年前半に始める予定と発表していますが、予定は変わりえます。Nektarは承認申請用の試験に進むとしていますが、開始時期は確認できませんでした。
まとめ
レズペガルデスロイキンとベンピキバートは、JAK阻害薬とは違う仕組みを狙う円形脱毛症の注射薬候補です。どちらも第2相の段階で、ベンピキバートの結果は33例の非盲検試験によるものです。日本では未承認で、国内での開発は確認できませんでした。今の治療については皮膚科で相談してください。
出典
- Nektar Therapeutics:REZOLVE-AA 第2b相 52週結果の発表(米SEC提出 Form 8-K Ex.99.1、2026年4月20日)。
- ClinicalTrials.gov:NCT06340360(REZOLVE-AA、最終更新2026年9月18日)。
- Q32 Bio:SIGNAL-AA Part B 36週主要結果の発表(米SEC提出 Form 8-K Ex.99.1、2026年7月13日)。
- ClinicalTrials.gov:NCT06018428(SIGNAL-AA、最終更新2026年5月8日)。








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